
温もりを探すなら、飛騨の椅子に座ってみてください
2025.04.23
家具のこと

大和屋家具店の淺井です。大和屋家具店のある愛知県の半田市は、今の時期、春のお祭りが盛んです。毎週のように、山車が街を雄大に進む姿は、見ていて感動すら覚えます。半田の地で生活しているとつい当たり前に感じてしまうモノも、冷静に振り返ってみると特別なモノってありますよね。
一枚板のテーブルをご紹介している時、「こちらの木目の方が温もりがありますね」とお話しすると、多くのお客様が「ああ〜なるほど、いいですね〜」と頷いてくださいます。やはり、木という素材はどこか人の心に寄り添う力があるのだと感じます。自然が生んだものには、私たちの感覚にすっと馴染む「何か」があるのかもしれません。
さて、そんなある日、お客様から「木の温もりを感じる椅子ってありますか?」というご質問をいただきました。なかなか奥の深い問いだなと感じました。木の温もりとは何か──目に見えるものではないですし、触れた感触や座り心地、空間に溶け込む佇まいまで、様々な要素が合わさって生まれる感覚だと思います。
そのとき私が思い浮かべたのは、やはり飛騨の椅子でした。個人的な感覚かもしれませんが、私は「飛騨産地の椅子をお持ちして、まずは座ってみてください」とおすすめしています。言葉で説明するより、実際に触れたときの「これ、いいですね」というお客様の表情が、そのすべてを語ってくれます。

もちろん、木製の椅子は他にもたくさんありますし、温もりに明確な基準があるわけではありません。それでも、飛騨の椅子にだけ感じる“何か”があるのです。触れたとき、座ったとき、背もたれに預けたとき、どこか柔らかく、安心感を与えてくれる。そんな不思議な力を、飛騨の椅子は持っているように思います。


飛騨高山は、岐阜県北部に位置し、標高3000メートル級のアルプス山脈にぐるりと囲まれた美しい土地です。その面積の実に92%が森林という、まさに自然に抱かれた地域。古くから木工の文化が息づき、人々は森とともに暮らし、木と向き合い、技を磨いてきました。そんな土地で育まれた家具には、自然と人の関係が深く刻まれている気がします。

歴史ある木工の技術を受け継ぎながら、今もなお新しい感性で家具を生み出し続けている飛騨の職人たち。その手によって丁寧につくられる椅子には、単なる“製品”ではなく、どこか“作品”のような趣があります。木の選定から木取、加工、組み立て、磨き、仕上げに至るまで、一つ一つの工程に職人の想いが込められていることが、椅子全体から伝わってくるのです。

飛騨は、椅子やテーブルといった「脚物家具」の産地としても知られています。曲木の技術や、木材同士をしっかりと組み合わせるホゾ組加工といった伝統技術が、デザインの美しさと座り心地の良さを両立させています。だからこそ、何十年と使ってもその価値が失われることはなく、むしろ年を重ねるごとに風合いや魅力が深まっていくのです。
家具を選ぶ理由は人それぞれです。デザイン、機能性、価格、サイズ……それらに加えて、「温もり」という視点で選んでみるのも素敵な選択だと思います。長く寄り添ってくれる家具とは、見た目や機能だけでなく、心にそっと馴染むもの。飛騨の椅子には、そんな特別な魅力があります。
もし機会があれば、ぜひ実際に飛騨の椅子に座ってみてください。言葉では伝えきれない、その“ぬくもり”を感じていただけると思います。家具がただの道具ではなく、暮らしの中で心を満たす存在になることを、きっと実感していただけるはずです。