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修理を通して見えてきた『モノの価値』

2025.04.28

家具のこと

大和屋家具店の淺井です。

皆さんは、「壊れても直して使いたい」「もう使わないけど、どうしても捨てられない」そんなモノをお持ちではないでしょうか?日常の中で使い続けているうちに、いつの間にか手放せなくなっている、そんな存在。今回は、お客様からいただいた修理のご依頼を通して、「モノの価値は、自分の中にある」と改めて感じた出来事をご紹介したいと思います。

写真の椅子は、お客様がご新築に合わせて選ばれた、特注のもの。座り心地やデザインをとても気に入っていただき、さらに高さも細かく調整しながら打ち合わせを重ねて完成した、まさに“一脚入魂”の椅子でした。そんな大切な椅子を納品して、ほんの数日後。お客様から一本のお電話がありました。

「子どもが椅子を倒してしまって、背もたれが折れてしまったんです…」

電話越しの声からも、そのショックと残念な気持ちがひしひしと伝わってきました。お話を聞きながら、こちらまで胸がぎゅっと締め付けられるような、やるせない気持ちになったのを今でもよく覚えています。

実際、椅子を後ろに倒してしまい、背もたれが折れるという事例は、年に数回はあります。小さなお子さんやご高齢の方がいるご家庭では特に起こりやすく、やむを得ない事故といえるかもしれません。でも、今回のように特注でつくられた大切な椅子であるからこそ、お客様の落胆も大きかったのだと思います。

そんな中、「修理できるなら、ぜひお願いしたい」とお申し出いただき、私たちはすぐに対応を進めました。メーカーに送り、専門の職人によって一から丁寧に修理していただきました。折れた部分を補強し、塗装も丁寧に調整。仕上がった椅子は、まるで何事もなかったかのような美しい姿で戻ってきました。

お届けの際、お客様が椅子を見て、少し不思議そうに折れていた部分を撫でながら、ホッとしたように微笑んでくださったのが印象的でした。モノに込められた想いと、そこに宿る記憶。それは新品にはない、唯一無二の価値だと感じました。

国内で丁寧なものづくりをしているメーカーの家具は、決して安い買い物ではありませんが、その分、修理やメンテナンスといったアフターケアもきちんと対応してくれます。だからこそ、大切に使えば何十年と寄り添い続けてくれる。そんな家具を選ぶことの意味も、今回の件を通してより深く実感しました。

モノには、作り手の想いや使い手の記憶が宿ります。そしてそれは、時に壊れてしまっても修理することで、より愛着のある存在になっていく。お客様のあの椅子も、事故という悲しい出来事があったからこそ、今はご家族にとって特別な存在になったのではないでしょうか。

モノの価値は、値段や見た目では測れない。心の中に残る思い出や体験が、その価値を育てていくのだと、改めて感じた出来事でした。